備忘録

天レク、セイ→オス

 飛び掛ってきたモンスターの最後の一匹を切り捨てたオスカーが、血振りしてから剣を収める。そのすっかり習熟した仕種をセイランはじっと見ている。
「どうした」
 振り返って聞く、笑みは眩しいほどの自信に輝いている。
 奪われた聖地、攫われた女王、踏みにじられた尊厳。蹉跌を物ともせずに。
 セイランは薄く笑って言葉を呑んだ。
 オスカーは肩をすくめて見せ、モンスターを道の端に片付けはじめた。
 手伝えと言われないからセイランは近づいていって、よいしょ、と鳥のようなものを嘴掴んで抱え上げた。
 そうしてちらりとオスカーを見る。
 立ち働きながら軽口の絶えない炎の守護聖様。
 腕が立って実際的で、快活に振舞う貴方は確かになくてはならない人なんだけど、あんまり楽しそうにしているものだから、アンジェリークの不審がもはや怯えに変わったのを知らないでしょう。
「僕は知ってるんだから」
 羽毛の隙間に吹き込むように呟く。
 僕は貴方のことだって知ってる。宿を離れるたび暖炉にくべた何十ものスケッチは伊達じゃない。
 苦難になら貴方は耐えることができる。それは安逸に耐えることよりも容易い。
 艱難に打ち勝つことは貴方の存在意義だから。
 万緑の中で、貴方はまるで炎そのもの。


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